腹痛があるとき——部位・性質・随伴症状で変わる受診先の選び方
監修:長友恭平(精神保健指定医/標榜:精神科・心療内科)なぜ精神科・心療内科の医師が全科を監修しているの?
監修医の専門は精神科・心療内科ですが、当サイトは内科・整形外科・耳鼻咽喉科・眼科・皮膚科・小児科・泌尿器科など12診療科を扱います。専門外の領域は各学会の最新ガイドラインに準拠して作成し、判断に迷う記述は記事を保留・修正しています。くわしくは監修方針をご覧ください。
⚠️ このサイトは診断を行うものではありません。受診先を考えるための参考情報です。
腹痛は、軽い消化不良からすぐに手術が必要な疾患まで、原因の幅がとても広い症状です。「どこが痛むか」「どんな性質か」「どんな症状が一緒に出ているか」、そして「どんな年齢層・背景の人か」で受診先の判断が変わります。このページでは、家庭でできる初期対応から救急受診の目安、随伴症状別の科の選び方、年齢・背景別の注意点までを整理しました。
すぐに救急受診を考えるサイン
次のいずれかに当てはまる腹痛は、当サイトの結果にかかわらず119/救急外来を検討してください。
- お腹を押すと跳ね返るような激痛(反跳痛)/お腹が板のように硬い(筋性防御)
- 吐血・タール便(黒い便)
- 黄疸(皮膚や白目が黄色い)
- 嘔吐を繰り返し、ガスも便も出ない(腸閉塞の可能性)
- 妊娠の可能性がある女性の急な下腹部痛+失神・冷や汗(異所性妊娠破裂の可能性)
- 強い背部痛をともなう側腹部の激痛+発熱(閉塞性腎盂腎炎の可能性)
- 意識がもうろうとする・冷や汗・血圧低下
- 抗凝固薬(ワルファリン・DOAC)服用中の急な強い腹痛
自分でできる初期対処 vs 救急に行くべき腹痛
すべての腹痛が病院直行ではありません。一方で「我慢できるから様子を見よう」と判断しているうちに腹膜炎まで進むケースもあります。家庭での対処を考えてよい腹痛と、迷わず医療機関に行ってほしい腹痛をざっくり整理します。
家庭で様子をみてよさそうな腹痛(一例)
- 食べすぎ・飲みすぎのあとの一過性の鈍痛で、排便・排ガス・休息で軽快する
- ストレスや緊張で起こる軽い下痢・腹痛で、いつものパターンに収まる
- 月経開始前後の周期的な下腹部痛で、いつもの鎮痛薬で対応できる
このタイプでは、無理に食事を取らず、水分(経口補水液など)を少量ずつ補給して安静にする対応が一般的です。市販の鎮痛薬を使う場合は、空腹時を避けて服用するほうが胃には優しくなります。半日〜1日たっても改善しない、悪化する場合は受診を検討してください。
その日のうちに受診を考えたほうがよい腹痛
- 痛みが数時間以上持続して悪化していく
- 発熱(38℃前後以上)をともなう
- 嘔吐を繰り返して水分が取れない
- 妊娠の可能性がある女性の下腹部痛
- 高齢者・乳幼児・基礎疾患のある方の新規発症の腹痛
迷わず救急(119/救急外来)
前項「すぐに救急受診を考えるサイン」に該当する場合です。とくに反跳痛・板状硬・吐血・黒色便・黄疸・繰り返す嘔吐+ガスが出ないは時間との勝負になることがあります。
部位別の主な原因
腹痛の部位は鑑別の最大のヒントです。指1本で示せる「点の痛み」と、広い範囲が痛む「面の痛み」とでも考え方が変わります。
心窩部(みぞおち)
- 胃炎・機能性ディスペプシア
- 胃食道逆流症(胸やけをともなう)
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 急性虫垂炎の初期(後に右下腹部に移動することがある)
- 心筋梗塞(高齢者・糖尿病の方では心窩部痛として出ることもあります)
- 急性膵炎(飲酒後・背部への放散)
右上腹部
- 胆石症・胆嚢炎(食後・夜間に出やすく、右肩に放散)
- 肝臓関連の疾患(うっ血肝・肝膿瘍など)
右下腹部
- 急性虫垂炎(心窩部痛から移動・嘔気・発熱)
- 大腸の憩室炎
- 卵巣関連(女性)・異所性妊娠(妊娠可能年齢)
左下腹部
- 大腸の憩室炎
- 便秘・宿便
- 卵巣関連(女性)
側腹部
- 尿路結石(突然の激痛・血尿)
- 腎盂腎炎(発熱・腰背部痛)
下腹部全体
- 過敏性腸症候群
- 膀胱炎
- 婦人科系(月経困難症・子宮内膜症・骨盤内炎症性疾患)
性質別の見分け方
- 間欠的な疝痛(しぼられるような波のある痛み): 管腔臓器の異常が示唆されることがあります(胆石・尿路結石・腸閉塞)
- 持続的な鈍痛: 炎症(虫垂炎・憩室炎・胆嚢炎)の可能性
- 食後の増悪: 胃腸・胆嚢の関与が考えられます
- 空腹時の心窩部痛・夜間痛: 十二指腸潰瘍が示唆されることがあります
- 動かすと響く痛み: 腹膜刺激徴候(早めの受診が望ましい)
腹痛+随伴症状別の受診先まとめ
腹痛は単独より、ほかの症状とセットで起こることが多い症状です。組み合わせで受診先のあたりがつきます。
| 一緒に出ている症状 | まず相談しやすい科 | 補足 |
|---|---|---|
| 下痢 | 内科・消化器内科 | 急性は感染性胃腸炎、慢性はIBS・IBDなど |
| 便秘+嘔吐+ガス排出停止 | 救急 | 腸閉塞の可能性 |
| 嘔吐(繰り返す) | 内科・救急 | 脱水・電解質異常に注意 |
| 血便・黒色便 | 内科・消化器内科 | 大量・タール便は救急 |
| 発熱(38℃以上) | 内科・救急 | 急性虫垂炎・腎盂腎炎・胆嚢炎など |
| 月経との関連あり/不正出血 | 産婦人科 | 子宮内膜症・卵巣関連を考えやすい |
| 排尿時痛・頻尿・血尿 | 泌尿器科・内科 | 膀胱炎・尿路結石 |
| 側腹部痛+背部叩打痛+発熱 | 救急・泌尿器科 | 腎盂腎炎の可能性 |
| 胸やけ・呑酸 | 内科・消化器内科 | GERD |
| 黄疸・濃い尿 | 内科・救急 | 胆道・肝臓系を疑う |
| 妊娠の可能性 | 産婦人科・救急 | 異所性妊娠の除外が最優先 |
詳しくは下の 女性の下腹部痛——内科か婦人科か迷ったときの選び方 もあわせてご覧ください。
リスク別の注意点(子ども・高齢者・妊婦・抗凝固薬服用中)
「ふつうの腹痛」と判断してよいかどうかは、年齢・背景で大きく変わります。以下に当てはまる方は、症状が軽くても早めの受診を検討してください。
子ども(とくに乳幼児)
- 「不機嫌で泣き続ける」「ぐったりしている」「繰り返す嘔吐」「血便(イチゴゼリー状)」は、腸重積など緊急疾患のサインのことがあります
- 3歳未満で1日以上続く腹痛、脱水を疑う所見(涙が出ない・尿が半日以上出ない)は早めに小児科を検討
- 痛みの場所をうまく言えないため、機嫌・食欲・排便排尿の様子も大切な情報です
高齢者
- 痛みの訴えが軽くても、虫垂炎・憩室炎・腸閉塞・心筋梗塞などが進行していることがあります
- 「いつもと違う」「食欲が落ちた」「元気がない」だけでも受診の目安になります
- 心窩部痛+冷や汗・息切れは心疾患の可能性も考えて早めの受診が望ましいです
妊娠中・妊娠の可能性がある方
- 妊娠初期の急な下腹部痛・性器出血は、異所性妊娠・流産の可能性があります
- 妊娠後期の規則的な腹部緊満は陣痛・常位胎盤早期剥離なども鑑別に入ります
- 自己判断せず、産婦人科または救急外来を早めに検討してください
抗凝固薬・抗血小板薬を服用中の方
- ワルファリン・DOAC(リクシアナ・エリキュースなど)・抗血小板薬(バイアスピリン・クロピドグレル等)服用中の急な強い腹痛は、腹腔内出血・消化管出血の可能性を考えやすくなります
- 出血量が少なくても進行することがあるため、「いつもと違う痛み」では早めに受診を検討してください
ステロイド・免疫抑制薬を服用中の方
- 腹膜炎が進んでも痛みや発熱が抑えられて気付きにくいことがあります
- 軽い腹痛・微熱でも油断せず医療機関で評価してもらうほうが安全です
受診の目安となる科
| こんな腹痛 | まず相談しやすい科 |
|---|---|
| 慢性的な胃の不快感・胸やけ | 内科・消化器内科 |
| 急な強い腹痛 | 内科・救急 |
| 発熱・嘔吐をともなう急性腹痛 | 内科・救急 |
| 排便で軽快する反復性の腹痛 | 内科・消化器内科 |
| 月経周期と関連する下腹部痛 | 産婦人科 |
| 側腹部の激痛+血尿 | 泌尿器科・救急 |
| お腹が硬く跳ね返るような痛み | 救急 |
| 抗凝固薬服用中の新規の腹痛 | 救急・内科 |
「内科」と「消化器内科」の使い分けに迷うときは、まず通いやすい内科で全身を診てもらい、必要に応じて消化器内科の精査(胃カメラ・大腸カメラ等)に紹介してもらう流れが現実的です。
よくある質問
Q. 食後すぐの腹痛は何が考えられますか?
A. 食後30分〜2時間以内の心窩部痛は、胃炎・機能性ディスペプシア・胃食道逆流症などが考えられます。脂っこい食事のあとに右上腹部から右肩にかけて痛むときは胆石症の可能性もあります。繰り返す場合は内科・消化器内科で相談してください。
Q. 朝だけお腹が痛くなって下痢します。過敏性腸症候群(IBS)でしょうか?
A. 通学・出勤前など特定の場面で繰り返す腹痛+下痢で、排便後に軽快するパターンはIBSの典型像のひとつです。ただし血便・体重減少・夜間の症状・発熱・40歳以上の新規発症がある場合は他の疾患の除外が必要なので、自己判断せず内科・消化器内科で相談してください。
Q. 虫垂炎の初期はみぞおちが痛むって本当ですか?
A. 急性虫垂炎は、初期にみぞおち(心窩部)や臍周囲の鈍痛として始まり、数時間〜半日かけて右下腹部に痛みが移動していくことが多いとされています。ただし全例ではなく、子どもや高齢者では典型像をとらないこともあります。痛みが持続・増悪する、発熱・嘔吐をともなう場合は早めに医療機関を受診してください。
Q. 胆石は手術が必要ですか?
A. 無症状の胆石は経過観察になることが多く、症状(疝痛発作・胆嚢炎の既往など)が出てくると腹腔鏡下胆嚢摘出術が検討されることが一般的です。判断は腹部エコー・血液検査・症状の経過によります。詳しい治療方針は消化器内科または外科で相談してください。
Q. ストレス性の腹痛は何科に行けばいいですか?
A. ストレスで起こる腹痛・下痢は、まず内科・消化器内科で器質的な病気(炎症・腫瘍など)がないかを確認してもらうのが一般的です。器質的な病気がなく、ストレスや不安・抑うつの要素が大きいときは、心療内科・精神科の併診を勧められることもあります。
受診前のチェックポイント
医療機関に行くときに、以下を整理しておくと診察がスムーズになります。
- 痛む場所(指で1点を示せるか/広い範囲か/移動したか)
- 痛みの始まり方(突然か/徐々にか)と、これまでの経過
- 性質(締めつけ/鈍痛/差し込むような/焼けるような)
- 食事との関係(空腹時/食後/特定の食品で増悪)
- 排便・排ガスとの関係(出ると軽くなるか/出ていないか)
- 嘔気・嘔吐・下痢・便秘・血便・タール便の有無
- 発熱・悪寒・冷や汗の有無
- 排尿症状(頻尿・排尿時痛・血尿)
- 女性の場合: 最終月経日/妊娠の可能性/不正出血の有無
- 服用中の薬(鎮痛薬・ステロイド・抗凝固薬・抗血小板薬は要注意)
- 既往歴・手術歴(虫垂炎・胆石・憩室・婦人科手術など)
- アルコール量・喫煙歴
「我慢できるから」と先延ばしにしているうちに腹膜炎まで進むケースもあります。痛みが強い・持続する・繰り返すときは、早めの受診をおすすめします。
関連ページ
監修:長友恭平(精神保健指定医/標榜:精神科・心療内科)
参考にした主な情報源
この記事は、各学会の診療ガイドライン・厚生労働省の公開情報・Minds ガイドラインライブラリ・標準的な医学教科書をもとに、医師監修のうえ作成しています。