もの忘れが増えてきたとき——加齢による物忘れとの違いと受診先(もの忘れ外来 / 精神科 / 脳神経内科 / 内科)の選び方
監修:長友恭平(精神保健指定医/標榜:精神科・心療内科)なぜ精神科・心療内科の医師が全科を監修しているの?
監修医の専門は精神科・心療内科ですが、当サイトは内科・整形外科・耳鼻咽喉科・眼科・皮膚科・小児科・泌尿器科など12診療科を扱います。専門外の領域は各学会の最新ガイドラインに準拠して作成し、判断に迷う記述は記事を保留・修正しています。くわしくは監修方針をご覧ください。
⚠️ このサイトは診断を行うものではありません。受診先を考えるための参考情報です。もの忘れは加齢のほか、甲状腺の病気やうつ、薬の影響など、治療できる原因で起こることもあります。
「同じことを何度も聞いてしまう」「約束を忘れる」「物の置き場所が分からなくなる」——もの忘れが増えてきたと感じると、認知症ではないかと不安になる方は少なくありません。一方で、年齢を重ねれば誰にでも起こる物忘れもあり、なかには甲状腺機能の低下やうつ、薬の影響など、評価して対応すれば改善が期待できる原因が隠れていることもあります。
結論:まず考える受診先
もの忘れや認知機能の低下が気になるときは、もの忘れ外来・精神科・脳神経内科が幅広く対応します。これらの科がない地域では、まず内科で甲状腺機能・貧血・ビタミン欠乏など治療できる原因を調べてもらう入り口にもなります。
すぐに相談してほしいサイン(レッドフラグ)
次のような変化があるときは、本ページの内容にかかわらず、できるだけ早く医療機関の受診を検討してください。緩やかに進む物忘れとは異なり、急ぎの評価が必要なことがあります。
- 数日〜数週間で急にもの忘れや混乱が現れた(せん妄・脳血管障害の可能性)
- ぼんやりして意識がはっきりしない時間帯がある/日によって変動が大きい
- 手足の麻痺・ろれつが回らない・歩きにくさなど神経の症状をともなう
- 頭部を打ったあとから、もの忘れや人格の変化が出てきた
受診を急ぐ目安
もの忘れにはすぐに対応が必要なものから、まずかかりつけへの相談でよいものまで幅があります。おおまかな目安として参考にしてください(個人差があるため、迷う場合は医療機関へ)。
🚨 できるだけ早く(当日〜数日以内)
- 数日〜数週間で急にもの忘れや混乱が現れた
- ぼんやりして意識がはっきりしない時間帯がある、または日によって状態が大きく変動する
- 手足の麻痺・ろれつが回らない・歩きにくさなど神経の症状をともなう
- 頭部を打ったあとから記憶や人格の変化が出てきた
⏰ なるべく早めに(2〜4週間以内)
- 月〜年単位で徐々に進んでいる(家族が「最近おかしい」と感じている)
- 日常の段取り・買い物・服薬管理などで失敗が増えてきた
- 気分の落ち込みや意欲低下をともなうもの忘れが2週間以上続いている
🏠 まずかかりつけ医や初診で相談でよい
- 「最近もの忘れが多い気がする」と本人が気になっている程度
- ヒントがあれば思い出せる程度で、日常生活に大きな支障はない
- 健診の一環として認知機能を確認しておきたい
加齢の物忘れと、受診を考える物忘れの違い
おおまかな目安として、次のような違いが知られています(あくまで一般的な傾向で、自己判断の根拠にはなりません)。
| 見るポイント | 加齢による物忘れ | 受診を考える物忘れ |
|---|---|---|
| 体験の記憶 | 体験の一部を忘れる | 体験そのものを忘れる |
| ヒント | 思い出すきっかけで思い出せる | ヒントがあっても思い出せない |
| 自覚 | 忘れっぽさを自覚している | 自覚が乏しい・指摘を否定する |
| 進行 | 大きく進まない | 月〜年単位で目立って進む |
| 生活 | 日常生活は保たれる | 段取りや家事・買い物に支障 |
もの忘れを引き起こす主な原因
もの忘れ・認知機能の低下には、さまざまな原因が考えられます。なかには適切に評価・対処することで改善が期待できるものも含まれます。
認知症(変性疾患・脳血管疾患)
最もよく知られているのはアルツハイマー型認知症で、脳内のタンパク質が蓄積することで神経細胞が徐々に障害されます。記憶の低下から始まり、見当識や段取り・計画といった実行機能へと影響が広がっていく経過をたどることが多いとされています。そのほか、脳の血管の病気(脳梗塞・脳出血)が積み重なることで起こる血管性認知症、幻視や歩行障害をともなうことがあるレビー小体型認知症、人格変化や言語障害が前面に出やすい前頭側頭型認知症なども知られています。
うつ病・抑うつ状態(仮性認知症)
意欲の低下・思考の遅さ・記憶の問題が認知症に似た形で現れることがあります(「うつ病性仮性認知症」と呼ばれることがあります)。気分の落ち込み・興味喪失・意欲低下が同時にある場合、うつ病が原因の可能性があります。うつ病の治療が進むとともに認知機能が改善することがあるため、この鑑別は重要です。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンが不足すると、思考の遅さ・記憶力低下・集中困難・倦怠感・寒がりなどが起こることがあります。採血検査(TSH・FT4)で確認でき、ホルモン補充療法で改善が期待できます。
薬の影響
睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)・抗ヒスタミン薬(一部の花粉症薬など)が、特に高齢者では認知機能に影響を与えることがあります。服用中の薬・サプリを医師・薬剤師に確認することで症状が改善することがあります。
ビタミンB12欠乏・貧血
ビタミンB12が不足すると神経の働きが障害され、もの忘れ・集中困難・手足のしびれが現れることがあります。採血で確認でき、補充により改善できる場合があります。
正常圧水頭症
脳の中の脳脊髄液が過剰にたまることで起こる病態です。「もの忘れ・歩行障害・尿失禁」の3つが揃うのが典型とされています。手術(シャント術)で改善が期待できる場合があります。
何科に相談すればよい?
- もの忘れ外来:認知機能の評価を専門に行う外来で、相談しやすい入り口です
- 精神科:気分の落ち込みや意欲低下をともなうもの忘れ、行動の変化がある場合に対応します
- 脳神経内科:神経の症状をともなうとき、脳の病気の評価が必要なときに相談しやすい科です
- 内科:甲状腺機能の低下・貧血・ビタミン欠乏など、治療できる原因がもの忘れの背景にないかを調べる役割があります
「軽いもの忘れは○○科・重いもの忘れは××科」という分け方は実態に合いません。まずは相談しやすい科で、治療できる原因がないかを含めて評価してもらうのが実用的です。
詳しい治療内容について
認知症の種類・検査・進行と対応について
認知症の種類・検査・進行と対応の詳しい解説は、同じ長友医師監修の精神科医ながともの処方箋ブログ(認知症解説記事)で扱っています。受診前の予習にご利用ください。
受診前メモ(持参すると診察がスムーズ)
- いつ頃から・どんなもの忘れが気になり始めたか(できれば家族の気づきも)
- 進み方(急に/緩やかに)と、日による変動の有無
- 気分の落ち込み・意欲低下・睡眠の変化の有無
- 服用中の薬・サプリ/飲酒量
- 既往歴(甲状腺・貧血・脳卒中・頭部外傷)
- 家事・買い物・服薬管理など生活面での困りごと
よくある質問
Q. もの忘れ外来と物忘れ外来は同じですか?
A. 実質的に同じ意味で使われています。大学病院・総合病院の神経内科や精神科が「もの忘れ外来」「認知症外来」などの名称で設けていることが多く、認知機能検査(HDS-R/MMSEなど)・血液検査・頭部MRI・場合により脳血流検査を組み合わせて評価します。「もの忘れ外来が近くにない」場合は、まず内科や精神科への相談から始めることもできます。
Q. 親の認知症が心配です。本人が受診を嫌がる場合はどうすればいいですか?
A. 「頭の検査に行こう」と直接言うと抵抗されやすい場合があります。「健康診断」「足腰の状態を見てもらいに」「一緒に行こう」という切り出し方が受け入れられやすいことがあります。本人の同意が難しい場合、ご家族だけでかかりつけ医や精神科・もの忘れ外来に相談し、対応方法を一緒に考えることもできます。
Q. アルツハイマー病と診断されたらどうなりますか?
A. 現在の治療薬(ドネペジルなど)は症状の進行を緩やかにする効果が期待されています(治癒ではありません)。早期発見・早期介入で生活の質を長く維持できる可能性があります。また、介護保険サービスや認知症サポートの利用が始められ、本人・家族の負担を制度的に支えることができます。詳しくは医療ブログの認知症記事もご参照ください。
Q. うつ病でもの忘れが起きることはありますか?
A. 起きることがあります。うつ状態では思考の速度が落ちたり、集中力や記憶力が一時的に低下したりすることがあり、認知症に似た症状を呈することがあります(「仮性認知症」と呼ばれることがあります)。うつ病の治療が進むにつれて認知機能が改善する場合があるため、気分の落ち込みや意欲低下をともなうもの忘れは、精神科・心療内科での評価も有用です。
Q. 薬の影響でもの忘れが起きることはありますか?
A. あります。睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)・抗ヒスタミン薬(一部の花粉症薬)などが、特に高齢者では認知機能に影響を与えることが知られています。「薬を飲み始めてからもの忘れが増えた気がする」という場合は、自己判断で薬をやめず、処方医や薬剤師に現在の薬の内容を相談してみることをおすすめします。
関連ページ
このサイトの内容は、診療ガイドラインや教科書から得られる一般的な情報をまとめたものです。実際の診療では症状が似ていても診断は人によって異なり、同じ病気でも経過や対応は一人ひとり違います。気になる症状があるときは、必ず医療機関で医師の診察を受けてください。
監修:長友恭平(精神保健指定医/標榜:精神科・心療内科)
参考にした主な情報源
この記事は、各学会の診療ガイドライン・厚生労働省の公開情報・Minds ガイドラインライブラリ・標準的な医学教科書をもとに、医師監修のうえ作成しています。